『ソーシャル物理学「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(2015)

断片記憶

アレックス・ペントランド、小林啓倫訳、矢野和男解説『ソーシャル物理学「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』草思社、2015年

「ソーシャル物理学」とは何か。定義は後にして、どういう問題意識で本を選んでいるかから始めたい。

経済学で扱う「経済人仮説」が経験的に検証不可能な仮説であり、そこに基礎を置いた経済理論にはある種の胡散臭さを感じている。

行動経済学は人間の行動実験(教室の学生を使った場合、数十人から数百人を対象にした社会実験が多い。)を通じてある行動を説明するが、行動そのものを抽象化する概念操作ができないもどかしさがあった。行動実験を繰り返えすことで、確率論的に結果が表されるが、将来も異なる集団も同じ結果になることを説明できるわけではない。そこに働く前提条件を読み取ることが難しいのである。

そこでビックデータで大量の事例を扱うことで人間の行動を知ることができないかと考えている。データ駆動型社会を想像している。人間が常に正しく考え、正しい行動がとれないのは何に原因があるのかが知りたいのである。社会的学習のメカニズムが分かれば、人材開発がより科学的に行えるのではないか。そういう問題意識で情報を拾っている。検証可能な仮説で議論をしていきたいためである。

定義

「社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数理的関係性を記述する定量的な社会科学である」と定義される。

「社会物理学は、アイデアが社会的学習を通じて人々の間をどのように伝わっていくのか、またその伝播が最終的に企業・社会の規範や生産性、創造的成果といったものをどうやって決定づけるのか、私たちの理解をたすけるものだ。これにより、小規模なグループ、企業内の一部門、さらには都市全体の生産性を予測することが可能になる。また、コミュニケーションのネットワークを微調整することで、より良い決断が下せるようにしたり、生産性を上げたりすることもできるようになるだろう」と社会物理学の効用が述べられる。

従来の経済的概念では理解できない人間の行動を考えるアプローチとして社会物理学に興味を持ったのである。

人口学的見地から日本経済が成長しないという議論がある。前提が変わらなければそうかも知れない。しかし、消費について、我々はシェアをこの間まで知らなかった。カーシェアやシェアハウスが我々の将来の行動をどう変えていくのか。都市もどう変えていくのがいいのか答えのない世界に線を引いて考えていきたい。

解説の矢野和男氏は日立製作所研究開発グループ技師長である。以下の本もあり、11月12日のITGIのカンファレンスでの講演「人工知能でビジネスはどう変わるか」を楽しみにいている。

矢野和男『データの見えざる手ーウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』草思社、2014年

コメント

タイトルとURLをコピーしました