「江戸時代の本棚~蔵書が語る知の形成・共有・継承」工藤航平(国立歴史民俗博物館研究部 准教授)を視聴したことは、この間書いたが、
その講演の中で、スライド12に蔵書目録が享保期(18世紀中頃)に一斉に現れるとして横田冬彦『日本の歴史16 天下泰平』講談社、2002年)が引用されていた。学術文庫版(2009年)をこの間読み返してみたが、第7章 開けゆく書物の世界が本書の白眉といえる。
在郷商人の三田家の蔵書目録は、雑多であるが、日蓮宗関係、和歌関係、軍記物、裁判物、教訓本、浮世草子、医書、儒学書などが目立った。
工藤航平氏は加賀藩の十村の北川尻村喜多家の蔵書目録が農政支配機構の末端として数ヶ村を管轄するのに必要な知識を得るための「農民鑑」などの書籍、「四冊物御定書」などの編纂物、「能州十村御扶持人等御代官役外品々御用勤方帳」などの文書からなることを指摘している。
在郷商人と村役人とでは、知識形成の仕方の違いが蔵書目録の違いとなって現れていた。
この手の話は著者の書いたものを読むに限る。
工藤航平「日本近世社会における知識形成と蔵書文化」(『歴史学研究』1031、2023年)
国立歴史民俗博物館・工藤航平・箱崎真隆編『REKIHAKU 特集・蔵書をヒラク』(国立歴史民俗博物館、2024年)
工藤航平『新装版 近世蔵書文化論 -地域〈知〉の形成と社会』(勉誠出版、2025年)
コメント