山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』講談社現代新書、2017年、2020年21刷
本書は、最初に答えを書いて、その理由づけをしていく書き方をしていました。その最後が第6章です。
第6章 美のモノサシ
グローバル企業が「美意識」の養成を重視し始めている理由について以下の3つをあげています。
1.論理的情報処理スキルの限界
2.自己実現欲求市場の登場
3.システムの変化にルールが追いつかない世界
これらをその前の各章で説明してきました。そして、意思決定のために「主観的な内部のモノサシ」が大事だという話になります。本書はタイトルにあるように「なぜ」に特化した本です。「どうするか」は第7章に少し書いてあります。
第7章 どう、「美意識」を鍛えるか?
ルールのないところでは判断に外部的なモノサシを使うことはできません。「美意識」という内部的なモノサシを求めるしかありません。
そこで、真・善・美を追求することとなり、哲学を学ぶ意義がでてきます。
著者は「哲学から得られる学び」を3つあげています。
1.コンテンツからの学び
2.プロセスからの学び
3.モードからの学び
「コンテンツというのは、その哲学者が主張した内容そのものを意味します。次にプロセスというのは、そのコンテンツを生み出すに至った気づきと思考の過程ということです。そして最後のモードとは、その哲学者自身の世界や社会への向き合い方や姿勢ということです」(p.232)。
そして、「現代社会を生きるエリートが、哲学を学ぶことの意味合いのほとんどが、実は過去の哲学者たちの「1.コンテンツからの学び」ではなく、むしろ「2.プロセスからの学び」や「3.モードからの学び」にある」(p235)と主張しています。確かに、アリストテレスの『政治学』を「何が」ではなく「何故」の観点で読んでいる自分の読書のあり方を考えても納得できるものです。
著者はさらに「美意識」を鍛えるために絵画をみること、文学を読むことをあげています。絵画を虚心に読み取る話はThink!でそういう手法の紹介がデザイン思考の時にあったことを思い出しました。現代哲学は専門化が進んだため読むことはできませんが、文学は真・善・美を「物語りの体裁をとって考察してきた」ものなのでそういう読み方はできると思います。詩のメタファーはリーダーのコミュニケーションに役立つといっています。レトリックは使い方次第ですが、戦争プロパガンダの研究を思い出したりしました。
さて、「美意識」を鍛えるために詩を読んできたわけではありませんが、レトリックには注意してこれからも詩や歌を楽しもうと思うのでした。
注)Think!はBPIAの研究会のひとつで、組織・人材開発コンサルタントの渡邉信光講師が、デジタル思考やアート思考をテーマに体験学習をしてきました。近年は新実在論をアクションリーディングで取り上げるなど、ビジネス人に哲学を学ぶことの重要性を説いています。
注)アンヌ・モレリ著、永田千奈訳『戦争プロパガンダ10の法則』(思想社、2002年)を本棚で探してみたが見当たらなかった。
注)『独学の思考法』(講談社現代新書、2022年)で山野弘樹氏はメタファーとアナロジーといつた技法について触れていた。「メタファー」は「自己を理解してもらうための図解の技法」として、そして「アナロジー」を「他者を理解するための図解の技法」として解説していた(第八章「他者に合わせた「イメージ」を用いる(kindle版のためページがない)。
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