居酒屋百名山を訪ねる

散歩時間

東京の神楽坂にそれはあった。

椿の植込みがある店は夕暮れて明かりを待つだけになっていた。ご主人が出てきて、並んでいることを告げると中に入いれてくれた。奥の座敷へ通される。板張りの囲炉裏を左手に見てそそくさと上がる。三人用の小卓が二つと二人用の小卓があり、囲炉裏が見える側の三人用に座る。

 

燗か冷かと聞かれただけである。迷わず燗酒をお願いする。奥から囲炉裏を見下ろす感じで、ご主人のお点前を拝見するみたいだ。灰に埋もれた銅壺から錫のちろりを取り出して手で撫でるようにして温度を計り、高いところから徳利に注くのを見ていると、氷河急行でグラッパを注いでくれた給仕を思い出した。その徳利を湯煎してから、お通しと一緒に出された。後で頃合いをみてなめこ汁が出てきた。

 

お通しは枝豆の剥身、小松菜のお浸し、大根の漬物、蒲鉾、らっきょうが小皿に盛り合わされて出てくる。備前の徳利に九谷の縦長のお猪口で呑む。

 

目が慣れてくると、暗い部屋の黒光のする建て付けが見える。戦争で焼けた店を戦後に再建したというが、70年以上経過しているように感じるのは再建した時に古材を使ったのだろうと思った。これはいつか聞く機会があれば聞くことにして、静かに呑むのだった。

 

よい店は写禁なのでここは東京に来た折に味わってもらうしかない。

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