大津透『律令国家と隋唐文明』岩波新書、2020年
岡山の鬼ノ城の話から始まる。整備された山城は古代朝鮮式山城である。倭国が白村江の戦いの後に山城を築かせたことが日本書紀に見える。しかし、鬼ノ城は日本書紀に築城の記載がなく、大津透教授が古代史の勉強をはじめたころには存在すら知られていなかったという。話はそうでなければ面白くない。
プロローグを読んだ後はあとがきを読む。
「学生と接していても、ウィキペディアの記載と、背後に厖大な研究史がある『国史大辞典』(吉川弘文館)の記述との差が感じられないようで、学問の危機的状況を感じる。本書の執筆にあたっては、新書とはいえ書き流すことをせず、できるだけ史料を引き先行研究にふれ、論拠を示した」(P206)と頼もしい。
溢れかえる新書の中から良書を見つけ出すのは谷沢永一先生の方法は間違いが少ない。これは書誌情報でいつも明らかにしてきたつもりである。
「三〇〇枚に満たない叙述であるが、一定の学術成果にもとづく、歴史学の「知」として、読んでいただければと思う」(同)という記述をみると、新書だから、索引がいらないとかいう輩とは一線を画している自負が窺える。
書誌情報
参考文献一覧、図表出典一覧、索引が完備しており、目次も細かい。本文は195頁である。
天皇号の成立
天皇号の成立には推古朝説と天武朝説がある。
大津透教授は推古朝説である。このあたりは『古代の天皇制』(岩波書店、1999年)に詳しいので機会があったら読んでみたい。これに関して、「日本の天皇には道教的要素は少ない」(P17)と書いてあり、古代道教の関係も読み直す必要を感じた。簡単に「影響」などという言葉は遣えない。
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