皇軍艦(みいくさぶね)を聴く

視聴時間

『花もよ 第35号』ぶんがく社、2018年

の付録『皇軍艦』30分17秒

『花もよ 第35号』を神保町の古書店で見つけて、東谷櫻子氏の解説を読む。「太平洋戦争中、昭和18年に新作能として発表された「皇軍艦」は海軍の勇姿を讃え、国民を鼓舞する作品として、戦時中の国家意識や価値観などが反映されており、民族差別的な詞章や戦争賛美の内容が多く、現代での上演はまずあり得ない」が、「その作品分析、演能までの経緯や演出などについて考察することは必要であろう」という。

前の『忠霊』を聴くのときに『皇軍艦』について潜水艦乗組員の佐古少尉の謡曲「赤道神」に観世流の節をつけたものだという程度の記述にした。今回、より詳しく書いておく。伊号二九潜水艦の艦内誌の「不朽」の創刊号(昭和18年2月11日)の佐古少尉作の新作謡曲「赤道神」をもとに観世銕之丞(華雪)が作曲、能に仕立てた。すでに『忠霊』で行われた戦争協力である。

この伊号二九潜水艦は、昭和18年4月「スバス・チャンドラ・ボース」をドイツのUボートから引継ぐ任務を遂行している。このインド独立運動の指導者は武力によるイギリスからの独立のため大日本帝国と手を結んだ。そうだったのか、興味はチャンドラ・ボースの方にあるのだ。寺島実郎の話で知っていたが、伊号二九潜水艦の関わりまでは分からなかった。

『皇軍艦』はシテ=赤道神、主ツレ=艦長、ツレ=諸神・航海長・砲術長・甲板士官、地謡からなる。甲板士官は観世壽夫である。原作のワキを省略している理由を世観世銕之丞(華雪)一門での開催を急いでいたと推測している。年表からはそう読み取れる。以下、抜粋してみる。2018年4月9日世観世銕之丞(華雪)が「戦時下における能楽師の覚悟」を講演。5月15日に檜書店で謡本を出版。26日に華族会館で初上演。27日の海軍記念日の翌日28日にはラジオ放送をしている。また、祭祀員のアイは演能記録に名前がないという。

詳しくは

東谷櫻子氏の「新作能「皇軍艦」の諸問題」(昭和女子大学大学紀要Vol.28 2017年)

新作能「皇軍艦(みいくさぶね)」の諸問題 | CiNii Research

さて、能を聴く。赤道神を祭る赤道祭なるものが能楽に出ることは二度とあるまいが。四番目物として修羅物と受け取れば、勇ましい言葉も能のテクニックの中に吸収される。聴き取ったことは忘れまい。

注)

『忠霊』を聴く

なお、webで「皇軍艦」で検索すると謡本の本文を掲載しているサイトがあったとだけ書いておく。

コメント

  1. […] 皇軍艦(みいくさぶね)を聴く『花もよ 第35号』ぶんがく社、2018年の付録… 視聴時間 シェアする Twitter Facebook はてブ Pocket LINE コピー Goinkyodoをフォローする Goinkyodo Handbook4Cs […]

タイトルとURLをコピーしました