『日本中世に何が起きたか』(2017)

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網野善彦『日本中世に何が起きたか 都市宗教と「資本主義」』角川ソフィア文庫、2017年、解説 呉座勇一

もちろん解説を読むためだけに買った文庫本である。

内容は4章からなるが、講演等を集めたものである。

序にかえてを読んでいくと、絵巻物の作者の心を知ることの大切さが言われていた。描いていないものを理解することは難しい。蝶々が死者の魂と思われていた時代には黄蝶を絵巻物に描くことはなかったと書かれていた(注1)。

デザイン思考の共感に関して、観察力の本を読んだことは既に書いたが、まさに、網野善彦は観察の重要さを指摘していた。

一遍上人の話題になる。『一遍絵伝』に描かれた時宗と非人のと距離感を述べながら、詞書の2人の有徳人を観察するところを読んでいると、絵巻物の作者の心を考えながら絵を観るレッスンを受けいてるようだ。

呉座勇一氏の解説を読む。「網野史学」は「百姓」の発見だという。百姓に農業生産者以外のものを見出した。非農業民の豊かな世界である。そして、非農業民のつながりである「無縁」論が展開された。この本では「無縁」論が影を潜め「資本主義」論が展開されたとする。

呉座勇一氏が垣根涼介との対談で室町時代になって初めて各地の名産品が生まれ、宇治のお茶などブランド品が成立していくというのは極めて資本主義的といっている(注2)。

室町時代は貨幣経済の発達した時代であり、むしろ、豊臣政権は貫高制から石高制に移行した。銭勘定から米換算に移行することは経済的には後退である。

呉座勇一氏は「「無縁」論から「資本主義」論への移行を”進化”と見るか”退行”と見るか。それは読者である皆さん一人ひとりの判断に委ねられている」と終わっている。

Ⅰ 境界

Ⅱ 聖と賤

Ⅲ 音と声

Ⅳ 宗教者

序にかえて

絵師の心 一遍と乞食非人

あとがきにかえて

宗教と経済活動の関係

解説 呉座勇一

「後期網野史学の代表作ー「無縁」論から「資本主義」論へー」

(注1)『奈良 西大寺展』で国宝「月輪牡丹蒔絵経箱」の解説には「鎌倉時代に制作された木製の箱。(省略)、蓋裏面と身底面には乱れ飛ぶ蝶の文様を金の蒔絵で描く」とあり、蓋の裏を見てみたかった。

(注2)『別冊宝島 新説応仁の乱』(宝島社、2017年)

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