月尾嘉男『日本が世界地図から消滅しないための戦略』致知出版社、2015年
特異点(Singularity)という言葉は2045年問題ということでレイ・カーツワイルの予言で知られるようになった。
人工知能の等比級数的進歩について、
「等比級数的に進歩していく人工知能は等差級数的な進歩しかできない人間の能力に急速に接近し、2045年には、人工知能が地球に生存する人間全体の能力の合計を追い越していくという見解を2005年に表明した」。
特異点(シンギュラリティ)は、
「それ以前には妥当であるとされていた価値や基準や制度が意味をなさなくなり、まったく別の概念を導入しなければ対応できなくなる時点である」。
本書はセンセーショナルなタイトルであるが、内容も厳しいものがある。
歴史は国家興亡の記録である。
現在、世界の国の数は196か国である。そのうち国連加盟国数は193か国、第二次世界大戦後、消滅・統合した国の数は183か国。我々はその事実を受け止める必要がある。
そして、カルタゴとベネチア消滅の原因が語られる。
カルタゴ消滅の原因
1.傭兵に依存
2.経済至上主義
3.カルタゴを脅威とする人々がローマに増加
ベネチア消滅の原因
1.技術革新への対応の出遅れ
2.地政学的変化
3.国民の通商意欲の衰退と、人口減少
この原因と考えられるものが、そのまま消滅につながるというわけではなかろう。しかし、日本に全て当てはまるのがなんとも耳の痛い話だ。
ベネチアの出遅れた技術革新とは手漕ぎのガレー船に対して、帆柱を備えたキャラベル船のことだ。海洋国家ベネチアの地位は低下し、ナポレオンによって滅ぼされた(1897年)。
日本のITは失われた20年が経ち、ますます世界のトップから水を開けられている。
日本に過去あった特異点は明治維新である。福沢諭吉の『文明論之概略』で議論の本位を定め、先進西洋文明を取り入れることが、視程にあった。
本書の眼目は、日本の停滞が特異点への対応のまずさに起因しているのではないかという指摘である。特異点においては、今までの基準や制度で対応しようとしても解決できない。まったく別の概念を導入する必要がある。
私にとって本書の魅力は、伝統文化や日本の自然への言及を通じて、「日本の魅力とは何か」をお浚いしてもらっことだ。日本の発展させた画一化の時代は終わった。文化の多様性に目をやれば、神楽を含め、ユニークな祭がまだ残っている。この祭から日本人はパワーをもらえるのではないか。
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