サン=テグジュペリ、堀口大學訳『人間の土地』新潮文庫、1955年、1975年26刷
八編からなる。サン=テグジュペリは職業飛行家であったから、数々のエピソードが劇的で面白い。しかし、自らの飛行の間に語られているのは僚友達の冒険と死である。エッセイなのか小説なのかわからなくなった。
一 定期航空
二 僚友
三 飛行機
四 飛行機と地球
五 オアシス
六 砂漠で
七 砂漠のまん中で
八 人間
そう思って読んできたら、解説を読んで読み方の違いを指摘された。
堀口大學が解説したことに何も付け加えることがない。
「この書の真価はじつに、著者のサン=テグジュペリが、これらの体験から引出したそのモラルのすばらしさにあるのだから。一見バラバラなように見えるこれら八編のエピソードは《人間本質の探究》という深いつながりで緊密に結びつけられている」(206ページ)。
「生命の犠牲に意義あらしめようとする、人道的ヒロイズムの探究、これがこの書の根本想念をなしている」(同上)。
「『人間の土地』は、物質的利益や、政治的妄動や、既得権の確保にのみ汲々たる現代から、とかく忘れがちな、地上における人間の威厳に対する再認識の書だ」(207ページ)。
「世にも現実的な行動の書であると同時にまた、最も深淵な精神の書でもある『人間の土地』は必ずや読者の心に、自らの真実、自らの本然に対する《郷愁》をふるいおこし、生活態度に対してよき影響を与えずにはおかないと訳者は信じるものだ。原著は一九三九年に発行された」(同上)。
本書が訳されたのは第一書房で1939年のことであるから、原著『TERRE DES HOMMES』が刊行された直後ということになる。堀口大學もエッセイとして読んだのだろうか。
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