「義務論の淵源を尋ねて(上)」(2017)を読む

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廣川洋一「義務論の淵源を尋ねて(上)」『思想』岩波書店、2017年9月号

片付けものをしていて、『思想』が出てきた。表紙を見たら、廣川洋一氏の名前に目が止まった。廣川洋一氏は2019年に亡くなられたので、公刊された最後の論考となるようだ。
「西洋思想の中で広く用いられてきた、そして私たちの誰もが目にし耳にすることがあったと見られる「義務」「義務論」の言葉は、キケロの『義務について』の書がその出所である」(p.49)。
「義務論の思考がプラトン、アリストテレスそしてストア派思想となんらかのつながりなくして成立しえなかったであろうことは明らかとしても、もう少し立ち入って基本点を見とどけたい思いは強くある。これまでキケロの『義務について』の後世への影響力については数多くの成果があげられてきているが、その淵源へは、私の知る限り、ほとんど目を向けられてきてはいない。ここでは私自身の探究の結果を、ひとまず以下の章にわたって示させたもらうことにしたい」(p.50)。
廣川洋一氏の論考はテーマの選び方がユニークで感心する。後世への影響はアダム・スミスの『道徳感情論』などが引用しているから容易であるにしても、思考の淵源をたどるのはあんがい難しいのである。
(上)はキケロがデコールム(decōrum,ī,n)と呼んだギリシア語のプレポン(πρέπον)すなわち「ふさわしいもの」の使用例をめぐってアリストテレスとプラトンの著作を検討する。(下)を読みたくなる。
注)生田幹男<廣川洋一先生を悼む>書誌(廣川洋一著作・論文目録)『筑波哲学』第29巻廣川洋一先生追悼号、pp.11-16、筑波大学哲学研究会、2021年11月を見ると、「義務論の淵源を尋ねて(下)」のあと、「2019 年夏、『キケロ『義務について』を読む』の原稿を書き了え出版社に渡さ れ、引き続きアリストテレス『弁論術』の研究に着手されていました。」とある。

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