『エンデと語るー作品・半生・世界観』(1986)

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子安美知子『エンデと語るー作品・半生・世界観』朝日選書、1986年、1987年第7刷

ミヒャエル・エンデ氏に対する子安美知子氏のインタビューがされたのは、1985年7月22日で、エンデ夫人が急死したのは3月のことだった。

「『朝日ジャーナル』誌は、ミュンヘン在住の小竹四郎氏をカメラマンに、私の娘、文(ふみ)を録音その他のアシスタントにして同行するように配慮してくれた」(P5)という。

こうして、約束の午後4時より15 分前に到着し、2時間くらいのインタビューのつもりが、夜まで続き、食事を「三船」で取りながら結局7時間もエンデ氏を拘束した結果、かけがえのない本となった。

子安美知子氏は娘の文(ふみ)氏をシュタイナー学校へ通わせたくらいだから、ルドルフ・シュタイナーの思想に共鳴しているのは勿論だ。エンデ氏もシュタイナー学校を退学するだけあってシュタイナーの思想に詳しい。この対談を少し難しくしているのは、子安美知子のリードによるためだろう。シュタイナーの言葉は注釈がされているが、だからといって理解が容易とは思えない。

本のエピソードが語られているところは読んでいて面白い。

エンデ「灰色の男たちは、こまぎれ、分解の原理です」(P123)。これなど、人間が全体性を回復するために何が必要かが問われるところですが、エンデの考えは深い。

エンデ「思考における全体性というのは、「質」を問う思考だといえます。「質」は計量できるものではないし、客観化も不可能です。だからといって、「質」は単に主観的なものでもないのです。「質」とは、第三のもの、そしてモモの生きかたも、そこにかかわる。だからモモは、全一なる存在です」(P123)。

ドイツ観念論を読んでいる気分になる。

黒姫にある黒姫童話館にはエンデ氏の再婚相手の翻訳家の佐藤真理子氏が寄贈した資料があるので、いつか訪ねてみたい。

注)シュタイナー学校が何故あるのかの説明はない。シュタイナー学校そのものの説明はないが、シュタイナーの思想が注釈されていた。しかし、それ自体が難しいのはいうまでもない。いくつかメモしておくけど、本の性格を知る上ではシュタイナー思想は避けて通れない。その点、河合俊雄氏の『100分de名著 ミヒャエル・エンデ Momo』(NHK出版、2020年)はシュタイナー思想をカットしたものだった。

キリスト者共同体(Christengemeinschaft)=ルドルフ・シュタイナーの思想にもとづいて改革されたキリスト教の新宗派( P7)。

アントロポゾフィー(Anthroposophe)=ルドルフ・シュタイナーが基礎をおいた世界観で、現在欧米各国にはシュタイナー学校をはじめとするさまじまな社外実践が、この思想を背景として試みられている(P13)。

オイリュトミー(Eurytmie)=人間のからだを楽器として、言葉や音楽の本質を動きに表現しようとする芸術。シュタイナーの示唆によって生まれた(P13)。

アストラル体、エーテル体、肉体=シュタイナーは、人間を自我、アストラル体、エーテル体、肉体(厳密には「物質体」)の四構成体から成らものとした。物質体は鉱物界と共有され、エーテル体は植物界にも存在する生命の要素、アストラルのは動物界にも見られる感覚反応の力、そして自我は人間だけにあって、他の三体を統合する(P87)。

アントロポゾーフ=シュタイナーの思想、アントロポゾフィーに共鳴する人(P87)

三層構造(Dreigliederung)P37-38

エンデ「三層構造を言葉で説明するのはむずかしくて、とても手短にはいきませんけど……要するに社会全体の機能を、三つ要素に分けます。経済と法と精神とにです。そして経済生活の領域には助けあいの力、法生活には平等の姿勢、精神生活には自由が、基本理念として通用すべきだ。この三領域が、三つの基本原則それぞれにのっとって機能しながら、相互にバランスをとり、インパルスを受けとりあう、というぐあいになれば、社会が健全になる」。

子安「一括してしまえば、自由・平等・友愛という三モラルではある」。

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