『ドイツ参謀本部』(1974)

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渡部昇一『ドイツ参謀本部』中公新書、1974年、1979年第12刷

渡部昇一の「知的生活」の実践例のような本である。渡部昇一の専門は「英文法史」である。渡部昇一が「ドイツ参謀本部の歴史」を一つの「古典(クラシック)」というのは歴史的・人生的教訓が得られるいう意味である。

「誕生から、育成、発展、光栄、悲惨、再建、消滅のすべての段階が、比較的短い期間に起こったものであるため、見通しやすく、しかも原因結果の連鎖が明快である。ということは、後世の教訓になりやすいということを示唆する。歴史は鑑(かがみ)であるという意味で、ドイツ参謀本部は、組織として動く人間の運命を見るための重宝な鏡である」(P3-4)。

渡部昇一が近代ヨーロッパの戦争史を4つの時代区分にしているのが特徴的である。そもそも、軍事史は不得手であるが、「ヨーロッパの陸戦史」と著者がいうのが正確だろう。

第一期 三十年戦争後の絶対王権の時代

第二期 フランス革命とナポレオンの時代

第三期 ドイツ参謀本部の時代

第四期 第二次世界大戦後の時代

そうであっても、一般的な区分とはなじまないが、批判しても仕方がない。

三十年戦争自体が日本人にはなじみが薄い。この宗教戦争後の世界は、エルンスト・ハルニッシュフェガー、松本夏樹訳『バロックの神秘 タイナッハの教示画の世界像』(工作舎、1993年)をもとに、松本夏樹氏のお話を2回聴く機会があったので少し分かってきた。

「三十年戦争後のヨーロッパの生活と戦争との関係を描写した例として、吉田健一の『ヨーロッパの世紀末』(新潮社、1970年)を引用」しているところが面白い。この時代を感じさせるのは作家の想像力である。吉田健一を探したくなるが、すぐには手の届かないところにある。

以前読んだのだが、すっかり忘れているので、40年ぶりに(実は数年前にも再版本のあとがきだけ読んだ。)読み直している。渡部昇一は色々と読んできたので、記憶の整理はつかない。やはりメモするしかない。

注)ヒレア・ベロック『フランス革命』(1911年)を渡部昇一が軍事面へも目配りがされており名著だと言っているので、webで検索したら、public domainになっている。いつか読んでみるためメモしておく。

THE FRENCH REVOLUTION BY HILAIRE BELLOC, M.A.

The French Revolution (Belloc) - Wikisource, the free online library

YouTubeには7時間のaudio版もある。

THE FRENCH REVOLUTION by Hilaire Belloc - FULL AudioBook | Greatest AudioBooks
THE FRENCH REVOLUTION by Hilaire Belloc - FULL AudioBook | Greatest AudioBooks - "It is, for that matter, self-evident t...

注)

E. H. カーがイギリスの工業化の初期の労働者の犠牲を例にとって「この代償という点から見て、進歩を押しとどめて、工業化しない方がよかった、と主張する歴史家というのは聞いたことがありません。こういう歴史家がいるとしたら、きっと、その人はチェスタトン(イギリスの作家、批評家)やベロック (イギリスの作家)の派に属しているに違いありませんが、真面目な歴史家からー全く当り前の話ですがーそういう人を真面目に受け取りはしないでしょう」(『歴史とは何か』P116-117)と書いている。E. H. カーは本の中であらゆる歴史家を批判の対象にしたが、作家はそもそも相手にしていない。渡部昇一は『歴史とは何か』(岩波新書、1962年)を読まずに書いたのだろうか。

#渡部昇一

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