『論より証拠』(1985)

読書時間

谷沢永一『論より証拠』潮出版社、1985年第2刷

神田古書まつりといえば、いつも気がつくのが当日だったりして欲しい本が思い出せずに、手ぶらでは帰れないため谷沢永一の本を探している自分に気がつくことが多い。しかし、この頃の本は谷沢永一が鬱で苦しんでいた時期なので、気晴らし程度にしかならない。まあ、読書に気分転換の読書があっていいのは、仕事に関係する本や雑誌を読むことが日中の務めになっている自分の精神のバランスをとるためでもある。サラリーマンが推理小説を読むのも、仕事の理不尽さに対して、山崎正和氏のいう「謎解きの公平さ」(P26)を求めるのだというのも頷ける。

谷沢永一が論争家としてのネタの出どころは『プラトン全集』や『ペリーメイスンシリーズ』だいうことが書いてあり、「議論を戦わすための本としてこの二つは世界最高」(P39)といっている。E.S. ガードナーの描くペリーメイスンの法廷場面は面白かった記憶がある。テレビのシリーズはレイモンド・バー演じるメイスンの法廷戦術を愉しみにしていた。ペイパーバックで読むくらいだから推理小説は好きなのだろう。最近、読んでいないことに気がつき、読書について考える必要があると思った。プラトンはソクラテスに「ディアレクティケー」させることで「弁論術」を批判しながら、技術そのものをフィロソフィー(愛知)に至るものにまで高めた。藤沢令夫訳の『パイドロス』を読みながら対話の面白さを感じている。

谷沢永一が「生涯読書計画を実践する五つの鍵」の中で面白いことをいっている。「第五は(これがもっとも大切なのだが)、読書に関しては、できる限り嫉妬心を抑えること、である」。

「人間、年をとってくると、自分より若い人たちの書いたものに対して、無意識の軽侮感、侮る気持ちが必ずといっていいほど生じる」。

「己れより一回りも若い世代がさっそうと書いた本を身銭を切って買い求め、書斎で読んで勉強するのは、何ともいまいましい。はるか昔に死んでしまって、切手に顔がのっているような偉大なる人物のものなら、読んでいても自尊心は痛まない」(P39)。

なるほど『人間通シリーズ』を書いた谷沢永一である。人の心の暗部を知り尽くしたアドバイスである。軽侮感、嫉妬心をもたないように努力し、「中年・熟年層はいかに謙虚に、かつ、ずるく対応するかを考えなくてはならない」(P40)。

若者からは教科書にないアイデアやセンスを学びとり自分のものとしなくてはいけないのだ。谷沢永一は最後に寸暇を惜しむことであると書いている。私も、わずかな時間でも、読書のためにあてることで、残りの人生を過ごしたいと思っている。

#谷沢永一

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