幕末の天才棋士の棋譜について内藤國雄九段が解説した本が研究所の玄関の本棚に挿さっていたので、少し読み返してみた。内藤國雄氏は天野宗歩をどう見ていたのだろうか。
「宗歩の棋力はどの程度であったのであろうか。結論から言うと宗歩はこれを測る人の実力を映す鏡だということである」(はしがき)。
これは怖いことである。
「私が奨励会の二、三級くらいのころ、「宗歩の強さはプロ初段ぐらいではないか」と、血気盛んな上位の先輩達が言っているのを聞いた。私が奨励会を卒業して四段になって棋譜をならべてみて「いや、プロの五、六段の強さがある」と思ったものだ。次に私が七、八段になったとき「宗歩なら今現れてもA級八段で通用するのではないか」という気がしだした。当時山田道美八段(故人)も同意見であったと記憶している」(同上)。
自分が角落を意識して稽古しようと思うのは、二枚落では棋力の差が大き過ぎる。飛香落は明治時代の古棋書を国会図書館でコピーして研究したことがある。飛車落は上手からの攻めがないので面白味を感じない。角落は攻防があるので将棋らしさを楽しめるからである。香落となると奨励会レベルの棋力を要求されるので今では無理な相談である。
ただ、本来の目的である角落だけでなく、全ての棋譜を並べてみたくなったのは、天野宗歩の将棋が面白いからである。現在の藤井聡太八冠の将棋も観ていて面白いからファンが多いのではかろうか。将棋における面白さをもう少し丁寧に説明する必要があると思うが、すぐに言葉が思い浮かばないのでまたの機会にしよう。
注)
内藤國雄『棋聖天野宗歩手合集』木本書店、1992年
平手35局、香落52局、角落13局、飛車落11局、飛香落4局、二枚落1局、四枚落1局の117局には解説がある。補遺43局の内訳は平手8局、香落4局、角落17局、飛車落8局、飛香落6局であり、棋譜のみであるところから内藤國雄九段が解説に値しないとみたのであろう。次の一手(全百題)があるのはありがたい。指定局面で考えるのが楽しいのである。
将棋DB2に天野宗歩の棋譜が掲載されていて便利だが、内藤國雄九段の解説がないと敗因がよくわからない。
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