2018年06月書籍往来

書籍目録

小林秀雄『旧友交歓 小林秀雄対談集』求龍堂、1980年

小林秀雄は対談をいくつもしています。付録の戦後主要対談一覧(昭和21年ー昭和54年)の最後が83番で、河上徹太郎との「歴史について」(文學界 昭和54年11月号)という対談でした。「この夏、河上徹太郎氏との対談を機に、これまで小林秀雄氏がなしてきた対談のかずかずのうちから、身近かに親しんできた人々と行なわれたものだけを集めて、この一巻を成した」(編集部)と説明があります。まずは河上徹太郎との対談を読むことから始めます。17、8才の頃に知り合って60年、「出会い還暦」とは恐れ入ります。もっと驚いたのは、小林が「葬式も出ないかもしれない」というと、河上が「お互いに告別式には出まい。どうせ、出てももう相手はいないのだから」という冗談とも本気ともとれる発言でした。確かに通夜に行っても相手は死んでいて会えません。小林が「要するに思想上で交わっていれば、充分」と返しました。二人の交わりは面白い。河上徹太郎の『自然と純粋』(1932年)から二人は自然な水魚の交わりではなく、純粋な思想上の交わりを選んでいたのでした。

私の場合、京都で知り合った人たちも年齢を重ねて会うことも少なくなりました。今は若い人からの刺激を受けることが楽しみになっています。知り合った人の出される本を読むという一方的な付き合いで、どちらかと言えば一緒に酒を飲むという水魚の交わりの方を好みますが、このまま、「ひとり」の世界に帰って行くのでしょうか。

注)河上徹太郎は1980年(昭和55年)に亡くなり、小林秀雄は1983年(昭和58年)に亡くなりました。例の話はどうなったかというと、小林秀雄が河上徹太郎の葬儀委員長を務めたのでした。

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