梅原猛『京都発見1 地霊鎮魂』新潮社、1997年、2003年第15刷
案内人・脚注執筆 西川照子
写真 井上隆雄
若王子から始まる。当時は、読んでも京都の地名はよく知らなかったし、社寺もその歴史を知らなかった。しかし、今は、京都に少し慣れてきたので、この本がまた、愉しめる。『幻の、京都』(2014)の西川照子氏が梅原猛氏の書かなかったことや、そのあとの事を書いたのを読んで、読み直したくなったが、本は外部倉庫に預けてあった。この春に取り寄せた5箱の中に入っていたので、早速取り出して、課題図書もあるけど、読み始めたら止まらなくなってしまった。
和辻哲郎の住んだ若王子の家に梅原猛氏は住んでいる。和辻哲郎の『古寺巡礼』ではF氏の家とあるが、原三渓の番頭であった古郷時待が建てた別荘である。梅原猛氏は『古寺巡礼』に対し「和辻のようにただ文化史的な好奇心の対象として古社寺を眺めることは出来ない。若い和辻と違って、歳を取った私は古い社寺に染み着いている人間の権力欲や愛欲、その喜びや悲しみをあまりによく知りすぎているのである」。やはり怨霊の先生であるので、霊との対話が相応しい。
まず、平安神宮で初めて、桓武天皇が祀られたことから始まる。神として祀る要件が足らなかった。しかし、近代化を推し進めた明治という時代はやたらに神を創造した時代である。怨霊の要件はなくなった。
平城京を終わらせた桓武天皇は、奈良時代という骨肉相争う時代を生きた。見渡せば死人だらけである。そうした背景で、早良親王の諡である崇道天皇を祀る崇道神社を理解し、早良親王、井上内親王、他戸親王他を祀る上御霊神社を見なければならない。今の地にかつてあったものを幻視することで、足を止めて時の勢いを受け止めることになる。
5月5日は崇道神社の祭りである。布鉾(ぬのぼこ)という青竹に一反の白い布を着物の形に巻いたものの写真(18-19)が何ともシンプルであるが、不気味な感じがする。
蓄音機の音は、針を伝わってホーンで拡大する。ステレオでなく、一体となった生々しい音の塊がホーンから向かってくる。京都の地霊の発する音に耳を傾けてみたい。
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