山室恭子『中世のなかに生まれた近世』講談社学術文庫、2013年
0.凡例
山室恭子『中世史研究叢書 中世のなかに生まれた近世』(吉川弘文館、1991年)を文庫化したもの。サントリー学芸賞 思想・歴史部門受賞。kindle版がでており、文庫版は品切らしい。
1.経緯
いきなり後北条氏の判物(はんもつ)、奉書(ほうしょ)式印判状、直状(じきじょう)式印判状を宛先毎や内容毎に分類することから始まる。目次で確認すると東国の大名たちが武田氏、今川氏、上杉氏、佐竹氏と続き、西国の大名たちも、毛利氏、大友氏、島津氏、大内氏・六角氏、東北は伊達氏など、天下人の信長、秀吉、家康が取り上げられている。それだけである。著者は戦国大名の発給文書を判物か印判状かでコツコツと数えていた。最初に読んだ時はこれが続くのかということに恐れをなして退散した。
掃除をしていて、段ボールの蓋を開けたらでて来たので読んでいる。なぜか読める。このところ地道に中世物を読んで来たせいなのだろうか。もともと統計処理は嫌いではない。一般読者を相手にするのであれば、分かりやすい入り方もあったと思う。
2.本書の構成
序
本文
文献リスト
謝辞
黒と白とーー旅の終わりに
用語集
学術文庫版あとがき
3.読み方
序はお伽話風に東の国の黒の王様と西の国の白の女王様の戦争が旅の始まりとして語られる。何となく分かるが、黒と白とーー旅の終わりにテーマが要約されている。そして学術文庫版あとがきに著者の歩いたその後の旅が語られる。そして、本書が著者の原点であることが確認された。
読み進めるに当たり、言葉が分からなければ用語集を見ることを勧める。
戦国大名を東国の印判状大名と西国の非印判状大名に分けることで見えた景色が面白いと思う。戦国大名の性格を発給文書から明らかにした労作である。
4.まとめ(判物から印判状へ)
判物には当主の署名と花押が据えられている。花押はサインである。印判状には印が捺されている。印判状は2種類に分かれる。書札礼により礼の薄い厚いの違いがあるが、大量発給に適した直状式印判状と都度発給する奉書式印判状に分かれる。
山室恭子氏は判物から印判状への変化の本質を問う。
さて、中世から近世への流れは判物から印判状である。これを人格的支配から官僚制的支配へと結びつけた説明は説得力があった。
コメント