2022年11月書籍往来
霜月の夜更けに昔読んだ本を読む。本を開く度にパラフィン紙が剥がれ落ちていく。
土左日記をAmazon で検索したら、手頃な本が出てこない。土佐日記で検索するとビギナー向けの本が出てくる。鈴木知太郎校注の『土左日記』は補注に博士達の異なった解釈が載せてあって、本文の解釈の難しさを感じる。以前に読んだ時は補注は読めなかっただろうから、少しは私も進歩しているようだ。それでも列子や荘子を探してきて確認しようとすると、夜は更けていくばかりである。
紀貫之略年譜を見ると承平五年(九三五)に土佐から帰京しているので、天慶二年(九三九)には藤原純友、平将門の乱の直前なので海賊が恐れられていた時期だから尚更恐ろしかったと思うと本文の登場人物達の行動がよく理解できる。
都で生まれた女児を任期中の土佐国で亡くした悲しみが全体を貫いて伝わってくる。
阿倍仲麻呂の「天の原」の歌も「あをうなばら」とアレンジして載せてあるのも秀逸に思えてくる。
こうなると大岡信『紀貫之』筑摩書房、1971年(ちくま学芸文庫、2018年)を引っ張り出して紀貫之の歌を読みたくなる。
注)『土左日記』は(貴族の)男が漢文で書く私的日記を仮名で書くことや、書き手は紀貫之ではなく、その近くにいた女性の視点であることから、想定が込み入っている。しかも、全日程を書きながらも、和歌物語としての統一性がある。当時の日記は具注暦に漢文で書かれていたので、どんなふうに書いたのだろうか。紀貫之が見聞きした下々の言動をまさか仮名で書いたとは思えない。松尾芭蕉の『奥の細道』も同行者の『曽良日記』と違うことからフィクションが含まれていることが知られている。執筆者の動機や意図がわからない以上推測によるしかないが、和文でしか味わえない世界を書いたことは間違いない。
【文学】
紀貫之作、鈴木知太郎校注『土左日記』岩波文庫、1979年
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